カメラ・オブスクーラ

カメラ・オブスクーラ (光文社古典新訳文庫 Aナ 1-1)

カメラ・オブスクーラ (光文社古典新訳文庫 Aナ 1-1)

『カメラ・オブスクーラ』粘菌的に緊密で奇怪な言葉の織り模様に、毒の胞子でうっとりするような読書体験。訳者解説が作品の面白さを何倍にも引き出してくれました。ひいき目(というのもおこがましい)でなくマジで。(twitter,10月12日)

↑作品と解説にとても影響されてますね。


どれほど言葉を尽くしても、いっぺんでも「本当」を現すことはできない。
新しく小説を読みはじめたその瞬間からいつも忘れてしまうそのことを、
とても軽やかに楽しげに暴いてみせて、その虚構のうえで遊びに遊ぶ。
たとえばクレッチマーの妻子の留守を狙って押しかけたマグダが屋敷で姿を消した時、
クレッチマーがクローゼットを開けるその瞬間まで、彼女はスカートの裾をはみ出したままでその中に隠れていたはずだが、開けた瞬間に彼女は赤い座布団に変わってしまう。
魔女のひとりも出てこないこの俗悪で残酷な小説のなかでも、そういう超現実的な魔法を使うことができる。
盲人に嘘の風景を教え、彼の風景(!)から存在を消しつつもすぐそばにいる、悪魔のような登場人物と、
ナボコフの手つきが重なる。それすら詐術か。
おおむかし、シリアスに涙した『ロリータ』を、新訳で大笑いして読みたいものだ。


以上、思いついたまま。